NO110 ウェルビーイングⅡ

2023年6月26日

ウェルビーイング(Well Being)について2回目です。ウェルビーイングとは「健康で幸せで良い状態」のことです。つまり、心と体と社会が良い状態を指します。(参考:実践ウェルビーイング診断 慶応義塾大学前野隆司教授、はぴテックCEO太田雄介、ビジネス社刊)

1980年代、アメリカの心理学者を中心に“Subjective Well-Being”「主観的幸福論」に関する研究が進みます。特に「幸福の父」とも呼ばれるエド・ディーナー、イリノイ大学名誉教授らによる論文です。そこには「主観的幸福度の高い人は、そうでない人に比べて創造性が3倍、売上げは37%高い傾向にある」といった数字が紹介されています。ほかにも幸福度の高い人は「職場において良好な人間関係を構築している」「転職率・欠勤率が低い」「健康で寿命が7~10年長い」「幸せな社員はそうでない社員より生産性が1,3倍高い」といったことが分かってきました。日立製作所の矢野和男氏の研究をはじめ「幸せであることは生産性を30%ほど増やす」といった調査結果が続々発表されています。

幸福度調査としてよく知られるものに国際連合の持続可能開発ソリューションネットワークが発行している「ワールドハピネスレポート(世界幸福度報告)」というのがあります。

世界150以上の国や地域を対象に自分の幸福度が10段階中どの段階かを尋ね、その答えをもとに調査するというものです。「1人当たりの国内総生産」「社会的支援」「健康寿命」「人生の選択の自由」「寛容さ・気前の良さ」「腐敗の認識」の6項目。具体的調査項目は①所得と富②住宅③雇用と仕事の質④健康状態⑤知識と技能⑥環境の質⑦主観的幸福⑧安全⑨仕事と生活のバランス⑩社会とのつながり⑪市民参加です。2012年から毎年発表され、日本の順位は「先進国中最下位」だそうです。

2022年の順位1位はフィンランド、2位がデンマークでした。アメリカは順位16位ですけれども、多くの人が「自分は幸せだ」と思っている国もあります。しかし、このレポートのアンケートの取り方にまだまだ課題があります。欧米は個人主義的社会、アジアは集団主義的社会です。個人主義的社会では「個人はしっかり意見を持つべき」という価値観で「幸せですか」と聞かれると「もちろんです」と答えるのが健全と考える社会ですが集団主義社会では「幸せですか」と聞かれると「まあ普通です」と答えます。周りの人たちを気にして自分だけ「幸せ」と答えることにためらいがあるのです。つまり両者は社会規範が違い、そこからアジアの方が低めになる傾向があるのです。

もう1つが社会的背景としてウェルビーイングは農耕革命、産業革命に続く「第三の革命」ということです。大きく人類の歴史を遡ると、最初に農耕革命が起こりました。それまでの狩猟採集生活から農耕生活に入り、食糧事情が劇的によくなりました。次が産業革命です。機械による大量生産が可能となり物質的豊かさに加え、人々の働き方も大きく変わりました。この農耕革命、産業革命に続く第三の革命がウェルビーイング革命だと言うわけです。IT革命もAI革命も、いずれも産業革命の延長です。

産業革命で人々の暮らしが豊かになる一方、地球は破壊され人類は孤独で不幸になったと。とくに顕著なのが日本で、自己肯定感が低く、仕事にやりがいを感じられない人が非常に増えました。よかれと思って発展してきたはずが、一番の主役である人類が幸せになっていないのです。その反省から経済一辺倒ではなく「心の幸せが第一」の社会にしようという発想が生まれてきたわけです。

幸福を健康と同じようなものと考えるなら、幸福と関係のある項目それぞれについて測る必要があります。それが近年始まったキャロル・リフ博士の「6軸モデル」やマーティン・セグリマン博士の「PERMA(パーマ)」とといった考え方です。パーマはウェルビーイングを「P=ポジティブな感情」「E=エンゲージメント(貢献)」「R=人間関係」「M=意味」「A=達成感」の5つに分けて考えるというものです。

一方前野教授は幸せを構成する因子として「やってみよう(自己実現と成長の因子)」「ありがとう(つながりと感謝の因子)」「なんとかなる(前向きと楽観の因子)」「ありのまま(独立と自分らしさの因子)の4つに分けられると考えられています。平和で安全な国、そして前野教授が提唱する「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」「ありのまま」を励みに会社を、職場を、地域を、家庭を一層「幸せ」にしていきたいものです。