2023年

NO111 PdCaの偏重

2023年10月11日 水曜日

 日本経済新聞の10月8日の朝刊2面に「失われた時代の本質」処方箋という記事が掲載された。提言はかの有名な野中郁次郎一橋大名誉教授である

・企業にとって「失われた30年」の真因はどこにあったのか。「雇用、設備、債務の過剰が企業を苦しめたのはその通りだ。しかしより本質をいうならプラン(計画)アナリシス(分析)コンプライアンス(法令順守)の3つがオーバーだった

・数値目標の重視も行きすぎると経営の活力を損なう。例えば多くの企業がPDCAを大切にしているというが社会学者の佐藤郁哉氏は最近『PdCa』になったと言っている。Pの計画とCの評価ばかり偏重されdの実行とaの改善に手がまわらないということ。同感だ

・行動が軽視され、本質をつかんでやり抜く『野性味』がそがれてしまった。野性味とは我々が生まれながらに持つ身体知だ。計画や評価が過剰になると劣化する。

・計画や数値目標なしに経営は成り立たないが、これは現状維持には役立つが改革はできない。 欧米の科学的管理手法から発展したやり方は、感情などの人間的要素を排除しがちだ。計画や手順を優先させられると人は指示待ちになり創意工夫をしなくなる。

・計画や手順が完璧であることが前提だけに環境の変化や想定外の事態に直面すると、思考も停止する。高度成長期には躍動の原動力だったとしても、今では成長を阻害する要因だ

 計画や評価の繰り返しで革新は起こらない。過去の成功体験があまりにも大きかったのが影響しているのかもしれない。刻々と変化する現実への対応を誤る傾向がこの30年、続いた

・バブルの絶頂期に向かう時期に「失敗の本質」を出した。組織というものは本来、変化に適応できるかどうかが絶えず問われる。旧日本陸軍の戦略のあいまいさ、短期志向、集団主義、縦割り、異質性の排除という点だ。今思えば過去30年の日本も底流にある問題は当時の日本軍と変わらなかった可能性がある。誤解を恐れずに言えば、事なかれ主義やリスク回避、忖度(そんたく)の文化が生まれやすい

・では成功の本質はどんなものか。過去の組織、戦略、構造、文化を変える。そして我々はなぜここにいるのかを確信できる価値と意味を問い直す。モノマネでは元も子もない。だから私は『考える前に感じろ』と訴えている

・ソニーグループを再生した平井一夫氏(前会長)が改革にはIQ(知性)よりもEQ(感性)と話していたのが興味深い。感動というパーパス(企業や組織の社会における存在価値や存在意義を示す言葉)で自信を失いかけた社員のマインドセットを変えたのだが、重視したのは共感だった。6年で70回以上タウンホールミーティングをしつこくやったという

・そこで重要になるのが個人に眠る暗黙知を集団で共有するプロセスだ。さらに徹底した対話を経て暗黙知を言葉や論理による形式知に変換する。最終的に集団で獲得した知の実践を通じ個人の暗黙知をもう一段高める。ホンダは経営や商品開発について現場の社員が徹底的に討論する『ワイガヤ』を重んじてきた。これは対話を通じて集合的に本質を直観する場合だ。お互いの理解を超えて関係性をつくるのはしんどいし、つらいプロセスだ。でも逃げずにやり切れば、新しい地平に至ることができる

NO110 ウェルビーイングⅡ

2023年6月26日 月曜日

ウェルビーイング(Well Being)について2回目です。ウェルビーイングとは「健康で幸せで良い状態」のことです。つまり、心と体と社会が良い状態を指します。(参考:実践ウェルビーイング診断 慶応義塾大学前野隆司教授、はぴテックCEO太田雄介、ビジネス社刊)

1980年代、アメリカの心理学者を中心に“Subjective Well-Being”「主観的幸福論」に関する研究が進みます。特に「幸福の父」とも呼ばれるエド・ディーナー、イリノイ大学名誉教授らによる論文です。そこには「主観的幸福度の高い人は、そうでない人に比べて創造性が3倍、売上げは37%高い傾向にある」といった数字が紹介されています。ほかにも幸福度の高い人は「職場において良好な人間関係を構築している」「転職率・欠勤率が低い」「健康で寿命が7~10年長い」「幸せな社員はそうでない社員より生産性が1,3倍高い」といったことが分かってきました。日立製作所の矢野和男氏の研究をはじめ「幸せであることは生産性を30%ほど増やす」といった調査結果が続々発表されています。

幸福度調査としてよく知られるものに国際連合の持続可能開発ソリューションネットワークが発行している「ワールドハピネスレポート(世界幸福度報告)」というのがあります。

世界150以上の国や地域を対象に自分の幸福度が10段階中どの段階かを尋ね、その答えをもとに調査するというものです。「1人当たりの国内総生産」「社会的支援」「健康寿命」「人生の選択の自由」「寛容さ・気前の良さ」「腐敗の認識」の6項目。具体的調査項目は①所得と富②住宅③雇用と仕事の質④健康状態⑤知識と技能⑥環境の質⑦主観的幸福⑧安全⑨仕事と生活のバランス⑩社会とのつながり⑪市民参加です。2012年から毎年発表され、日本の順位は「先進国中最下位」だそうです。

2022年の順位1位はフィンランド、2位がデンマークでした。アメリカは順位16位ですけれども、多くの人が「自分は幸せだ」と思っている国もあります。しかし、このレポートのアンケートの取り方にまだまだ課題があります。欧米は個人主義的社会、アジアは集団主義的社会です。個人主義的社会では「個人はしっかり意見を持つべき」という価値観で「幸せですか」と聞かれると「もちろんです」と答えるのが健全と考える社会ですが集団主義社会では「幸せですか」と聞かれると「まあ普通です」と答えます。周りの人たちを気にして自分だけ「幸せ」と答えることにためらいがあるのです。つまり両者は社会規範が違い、そこからアジアの方が低めになる傾向があるのです。

もう1つが社会的背景としてウェルビーイングは農耕革命、産業革命に続く「第三の革命」ということです。大きく人類の歴史を遡ると、最初に農耕革命が起こりました。それまでの狩猟採集生活から農耕生活に入り、食糧事情が劇的によくなりました。次が産業革命です。機械による大量生産が可能となり物質的豊かさに加え、人々の働き方も大きく変わりました。この農耕革命、産業革命に続く第三の革命がウェルビーイング革命だと言うわけです。IT革命もAI革命も、いずれも産業革命の延長です。

産業革命で人々の暮らしが豊かになる一方、地球は破壊され人類は孤独で不幸になったと。とくに顕著なのが日本で、自己肯定感が低く、仕事にやりがいを感じられない人が非常に増えました。よかれと思って発展してきたはずが、一番の主役である人類が幸せになっていないのです。その反省から経済一辺倒ではなく「心の幸せが第一」の社会にしようという発想が生まれてきたわけです。

幸福を健康と同じようなものと考えるなら、幸福と関係のある項目それぞれについて測る必要があります。それが近年始まったキャロル・リフ博士の「6軸モデル」やマーティン・セグリマン博士の「PERMA(パーマ)」とといった考え方です。パーマはウェルビーイングを「P=ポジティブな感情」「E=エンゲージメント(貢献)」「R=人間関係」「M=意味」「A=達成感」の5つに分けて考えるというものです。

一方前野教授は幸せを構成する因子として「やってみよう(自己実現と成長の因子)」「ありがとう(つながりと感謝の因子)」「なんとかなる(前向きと楽観の因子)」「ありのまま(独立と自分らしさの因子)の4つに分けられると考えられています。平和で安全な国、そして前野教授が提唱する「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」「ありのまま」を励みに会社を、職場を、地域を、家庭を一層「幸せ」にしていきたいものです。

NO109 粗利

2023年5月30日 火曜日

今回は「粗利だけを見ろ」という本を紹介します。著者は経営コンサルタントの中西宏一氏 

幻冬舎から出版されています。タイトルには「儲かる会社が決して曲げないシンプルなルール」とついています。概要は次の通りです。

・会社が陥る「売上中毒」いくら仕事があっても、まったく利益が残らない。利益が出

 ない根本的な原因は、利益率が低い仕事や、最終的に利益がマイナスになる仕事でさ

 えも引き受けているからなのです。「売上さえ増やせば自然と経営が上向く」そんな風

に考えている人がたくさんいるのです。

 ・売上に強く目が向く理由として、売上と利益が比例するという幻想にとらわれているこ

とも挙げられるでしょう。しかし、それには条件があります。まず自社の設備や人員を

見直し、売上増加分の仕事をこなせるかどうかを考えなければならないでしょう。生産

力や施工力には限度があります。たくさん仕事を取り、売上を増やしたとしても、その

仕事を消化できる力がなければ品質が低下します。量も質も維持しようとすれば現場の

労働力が限界になり、社員が疲弊していきます。

 ・仕事を取ってくる営業部門は「売上を増やせ」という表面的な指示だけ受けて動いてい

るケースが多いため「とにかく仕事さえ取れればいい」「仕事を増やせばどうにかなる」

と安易に考えます。私が知る限り、経営不振に陥っている会社の営業は、間違いなくそ

う考えています。

・売上至上主義は一種の病です。業種としては現金の出入りが見えやすい飲食店や小売などは売上至上主義に陥る可能性が比較的小さいように思います。一方建設、製造、卸などは手形を切って商売するケースは、お金との距離が比較的遠くなりがちです。利益管理が軽視されやすく、結果的に売上至上主義という病にかかりやすくなるのだと思います。

・現在30社近い会社の経営改善を同時進行しています。どの会社も順調に経営状況が改善しています。まずは経営者の方は自社が売上至上主義に陥っていないか疑ってみることが大事です

・粗利とは売上総利益(粗利)のことです。製造業や建築業では粗利よりも製造・建築現場で働く人の人件費が製造原価となる業種では「限界利益」で目標を立てる方が有効です。重要なのは粗利を稼ぐことであり、そのための施策を社員に考え出してもらうことです。

・改善の兆しが見えたら報酬を増やす。報酬とやりがいの両面から社員を支えること

・粗利だけを見る姿勢を定例会議で社員に叩き込め。そして粗利確認会議は現状の粗利獲得状況を確認し、期末に向けた施策を考える場。定例会議で粗利を見る習慣を根付かせる。場合によって利益率が低い仕事は断り、高い仕事を増やす戦略に切り替える必要もあるかもしれません。

NO108 人的資本経営

2023年4月14日 金曜日

 今、人的資本経営について関心が高まっています。人材こそが企業の将来を左右することは間違いないでしょう。人材版伊藤レポートでは、「3P・5F モデル」が提唱されています。このなかの「3P」とは3つの視点(Perspectives)のことです。

1経営戦略と連動した人材戦略:経営戦略と連動していることが重要となります。そのため、策定した経営戦略を実現するにあたってどのような人材が求められるのかを定義し、経営戦略とのつながりを意識しながら、自社に適した採用や育成、配置といった人材戦略を練る必要があります。2目標と現状のギャップの把握:策定した経営戦略を実現するにあたってどのような人材が求められるのかを定義し、経営戦略とのつながりを意識しながら、自社に適した採用や育成、配置といった人材戦略を練る必要があります。3 企業文化として定着させる:企業理念や企業の存在意義(パーパス)、持続的な企業価値の向上につながる企業文化を定義し、定着させることが重要です。まずは社員一人ひとりに対して企業文化を意識付けるためにも、経営トップ自らが粘り強く経営理念やパーパスを発信する必要があります。次に「人的資本経営に求められる5つの要素(Factors)

1 動的な人材ポートフォリオ:人材ポートフォリオとは、どのようなスキル・経験をもった人材が、どの部署にどの程度在籍しているのか、人材の構成内容として示したものです。人材ポートフォリオを整備し、活用や適時最適化を図ることで現状において自社で働く社員の状況を正確に把握できると同時に適材適所の人材戦略を実現しやすくなります。2 知・経験のダイバーシティ&クルージョン:多様な経験や感性、価値観、専門性をもった人材を受け入れ、人的資本として経営に活かしていくことが求められます。また、多様な知見をかけ合わせることでイノベーションが生まれ、これまでになかった革新的な事業のヒントになることもあります。3 リスキリ・学び直し:新たなスキルや知識を身につけることをリスキルや学び直しとよびますが、企業は社員が自らのキャリアを見据え、学び直しに取り組むことができるよう、自律的なキャリア構築を支援することが求められます。リスキルや学び直しの習慣が社員一人ひとりに身につくことで、ビジネス環境や経営環境が変化し続けるなかでも柔軟に対応していけるようになるでしょう。4 従業員のエンゲージメント:従業員エンゲージメントとは、企業や組織に対する愛着心や思い入れ、自社に貢献したいという意欲などを意味します。従業員エンゲージメントを向上させるためには、企業や組織の目標と社員個人の成長のベクトルを一致させることが重要です。そのためには、経営層から社員に向けて積極的に発信・対話することはもちろんですが、柔軟な就業環境の整備、多様なキャリアパスなどを準備したりすることも有効といえるでしょう。5 時間や場所にとらわれないはたらき方:たとえば、リモートワークやフレックスタイム制、時短勤務制度などを整備することで、時間や場所にとらわれない働き方が実現できます。

107 健康経営

2023年3月25日 土曜日

 経済産業省では、健康経営に係る各種顕彰制度として、平成28年度には「健康経営優良法人認定制度」を創設しました。優良な健康経営に取り組む法人を「見える化」することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業」として社会的に評価を受けることができる環境を整備しています。

「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。
健康経営は、日本再興戦略、未来投資戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの一つです。(経済産業省ホームページで発信:アクション健康経営)

この3月健康経営優良法人が発表されました。今年で7年目です。受賞企業は全業種に及んでいます。今年17000社近くの会社が受賞しています(毎年更新申請が必要)

健康経営の取り組みとは(健康経営の調査項目)大項目では1、経営理念・方針 2組織体制 3制度・施策実行 4 評価・改善 5 法令遵守・リスクマネジメントとなります。

健康経営の「制度・施策実行」の中で特徴的な項目があります。

1つ目に「健診・健診等の活用・推進」内に②従業員の健康診断の実施(受診率100%)が挙げられます。こちらは労働安全衛生法第44条に実施が義務づけられていますが、多くの企業においては、一部の従業員の反発等により受診率100%は達成できていません。

しかし健康経営では、特段の理由がない限り100%が求められています。

2つ目に「ヘルスリテラシーの向上」(リテラシー:その分野に関する十分な知識や情報を収集し、かつ有効活用できる能力のことを意味する表現である)内の⑤管理職・従業員への教育が挙げられます。日本人は先進国の中でヘルスリテラシーが低いことで有名です。

3つ目に「職場の活性化」内の⑦コミュニケーションの促進に向けた取り組みです。さらに⑬長時間労働への対応に関する取り組みが挙げられています。

健康とは身体的、精神的、社会的に満たされた状態と考えられ、その状態がWell-beingと解釈されています。(参考:最強戦略としての健康経営 新井卓司 同友館発行)いずれにしても、どの企業も「健康経営」は必要だと思います。

NO106 パナソニックⅡ

2023年2月28日 火曜日

「巨人は変われるか」という特集で「Panasonic再起」と題してパナHD楠見社長に聞くという記事が昨日、日経産業新聞に掲載されました(2023年2月27日)我々にとって子供の頃からなじみ深くビジネスの世界でもつながりの深い名門企業の将来が語られている記事でもあり紹介したい。2年前の2021年7月、当ブログ87号でパナソニックを取り上げています。日経産業新聞 Panasonic再起 楠見雄規社長の画像

パナソニックホールディングス(HD)の楠見雄規氏が社長に就任して2年、事業会社に自主性を持たせて収益を稼ぐことを意識させる「自主責任経営」と、成長領域と位置付ける環境分野で技術・知見を生かす社会へのお役立ちを両軸にスピード感を意識した経営に取り組んできています。

 ・3年累計の営業キャッシュフロー2兆円の達成を経営指標として特に重視しています。自分たちの事業を真摯に振り返って自ら

  改革し続ける意識が重要だ。単年度の計画を守ることに固執して、思考停止に陥ってしまってはいけない。新製品開発でも、

  固定費削減でも課題にすぐ対処して改善していく意識が競争力につながる。

 ・『誰にも負けない立派な仕事をする』という高橋荒太郎・元松下電器産業会長が何度も話していた言葉がある。誰にも負けない

  立派な仕事をした結果、顧客が喜んで使ってくれるものができ、その結果として利益が生み出される。利益が得られない、

  もしくは顧客に選んでもらえていないのであれば、直ちに改革のメスを入れなければならない。

 ・お金というものを営業利益ではなく、営業のキャッシュフローで見れば、在庫が増えた状態は実際に手元にお金がないのと同じ

  だ。これでは将来への投資ができず、顧客に対してお役立ちが継続できない。究極的には顧客へのお役立ちにおいて誰にも負け

  ないことが重要だ。その上できちんと対価をもらって、自分の稼いだお金で成長していけることがクリアできているのであれば

  いい。利益やシェアは後からついてくるものだ。

 ・事業会社のトップは目の色が変わってきた。今は様々な逆風がある中でも、投資提案が出てくるようになった。

 ・地球温暖化阻止の一助になるのであれば事業会社をサポートしていく。ただ投資する製品は競合他社に負けない競争力が必要

  だ。コスト面でも性能でも競合他社に負けない競争力が必要だ。志をもった競争力がある事業であれば、気になる点はあった

  としても「やってもみなはれ」ということで後押しをしていく。

パナソニックの将来が楽しみだ。様々な困難を乗り越えて成長してほしい。 

                                

NO105 モチベーション

2023年1月19日 木曜日

 モチベーションとは「動機」を意味する英語(motivation)ですが、日本では「動機づけ」や「やる気」を意味する言葉として用いられることがあります。人間を行動に駆り立てるものは何か、と考えてみれば

   モチベーション1・0:原始時代は空腹を満たしたり生殖など生存本能に基づくもの。

   モチベーション2・0:工業化社会、サラリーマン社会ではアメとムチで駆りたてられた。

そしてモチベーション3・0の時代になった。(参考:モチベーション3・0 著者ダニエル・ピンク、講談社>ダニエル・ピンクはモチベーション3・0には3つの要素が必要だと言う。「内発的動機づけ」それは①自律性②マスタリー(熟達)③目的の3つである。

1、自律性 

21世紀は「優れたマネジメント」など求めていない。マネジメントするのではなく、子供の頃にあった人間の先天的な能力、すなわち「自己決定」の復活が必要なのである。自律性とは、選択をして行動することを意味する

社員は好きな時間に出社する。決まった時間帯にオフィスにいる必要はない。さらにオフィスに来る必要もない。ただ自分の仕事をやり遂げ結果を出せばよいのだ。

人は本来責任を果たすことを望んでいる。つまり課題や時間、方法、チームを確実に任せることが、目的に至る早道だと考える。大きな自律を与える会社は競合他社より高い業績を上げる。

2、マスタリー(熟達)

マスタリーとは、何か価値あることを上達させたいという欲求だ。マスタリーはマインドセット(心の持ち方次第)である。

マスタリーは苦痛である。長期目標を達成するためには忍耐力と情熱が必要だ。マスタリーは「漸近(ぜんきん)線だ」(だんだん

近づいていくけれども、なかなか近づかない)熟達とは熟練して上達すること。

3,目的

目的の追求は人間の本質である。人間は本質的に人生の意義や目的を探すものだ。自分以外のもの、社会などの利益に貢献する

永続的な目的を求める。マスタリーを目指す自律的な人々は非常に高い成果を上げる。だが高邁な「目的」のためにそれを実行

する人々は、さらに多くを達成できる。きわめて強く動機付けられた人々―当然ながら、生産性が非常に高く満足度も高い人々

は、自らの欲求を自分以外の「より大きな目的」に結びつけるものだ。この目的という新しい動機の兆候を、目標、言葉、指針

という組織における3つの領域で見て取ることができる。高い成果を上げる秘訣は、人の生理的欲求や、信賞必罰(功績があれば

必ず賞を与え、罪があれば必ず罰すること)による動機づけではなくー自らの人生を管理したい、自分の能力を広げて伸ばしたい、

目的を持って人を送りたいという人間に深く根ざした欲求である。